さほど頻度は多くないけれど、米良は夜明け前にふと目を覚ますことがある。
 身体の体温が一番低くなる時間帯に。まだ日が昇る寸前だから、カーテンのむこうは薄暗い。
 米良はやることもないのでそのままベッドに横になっている。布団の中は暖かい。手足は冷たい。香織は背を向けて眠っているので寝顔は見えない。手を伸ばして、僅かに猫背になっている香織の脊椎を撫でる。皮膚の下で隆起する骨を指で辿る。
 頸椎、胸椎、腰椎、起こしては可哀そうなのでそこまでにした。やわい脊髄を取り囲む硬い骨の感触から、すんなりと真っ直ぐに保たれる背すじを思い、立ち姿を思い、濁らずに生きる目を思い、まだ香織と過ごせる明日があることを米良は思い出す。
 香織の肩を見て、呼吸を同調させる。
 引きずられるように自然と眠くなってきたので、米良はすこし微睡む。


 さほど頻度は多くないけれど、香織は夜明け前に目を覚ますことがある。原因はわからない。
 身体の向きを変えて、眠る米良に身体を寄せる。
 手のひらを開いて米良のあばら骨の上に置く。筋の下の骨は感知できない。代わりにゆったりとした胸郭の動きを感じる。
 発話した時、たあいもないことや予想のつかないことを口にして笑う時の低い振動を思い、また言葉をかわせる明日があることを思い出す。
 手のひらから伝わる動きと、呼吸を同調させる。
 別に繋がってもいないのに、自分は米良と一体だとふと思う。
 香織は意識がはっきりしない微睡みのなか、快い死へとまた潜る。






















(2015.11.6)












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