美国の執務室に秘書を通さず入れるのは香織くらいなものだが、彼はその特権を一度しか使ったことがない。美国に異議を唱えたことも。
 彼は部屋に入るなり言った。
「パートナーは要りません」
「理由は?」
「不要です。一人でできます」
「会社のシステムの理由なのか、パートナーの理由なのか、あなたの理由なのか知りたい」
「俺が信頼できないからですか?」
 美国は少し口角を持ち上げる。香織に理由があると判断した。目を細め、つかの間香織を観察する。
 彼は拳銃を二丁に増やしている。
「この先ずっと、一人きりで行くつもり?」
 美国は細い煙草に火をつける。ここで煙草を吸うのは話をする余暇がある時だと香織は知っている。だから彼は黙り込んだ。煙草をふかして美国も黙る。じれたように香織が話す。
「社長は、どうなんですか」
「私はいいのよ。二人でもいいけど、一人で行くほうが本当に好き。特に仕事はね」
「それは、俺もそうです」
「パートナーがいるとはどういうことか、香織は知らないでしょ? 知ったうえでやっぱり要らないなら一人でいればいい」
「……」
 分かりました、と香織は呟いて部屋を出ていく。
 美国は肺に溜まった煙を深く吐き出す。
「子供は今不足しているものしか欲しがらない。それを手に入れてどうなるのかなんて考えない。貴方は子供じゃないから、欲しがることができない」
 クリスタルの灰皿の上に灰を落とす。


「手に入れた後でそれを失うのは嫌なものよ。誰でも」




















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