鮮やかな花火が夜空に炸裂した。


 広がった光がちぎれて消える。後ろにいる米良が小さく感嘆の声を上げている。香織は銃口を下ろさない。視界の端に花火の光が焼きついている。
 二発目。火薬の破裂音が心臓に響く。弾丸を撃った衝撃が香織の肩と背に伝わる。
 三発目。


 花火はその大部分が建物に隠されて欠けていた。音だけがはっきりと届く。
 米良は花火から目をそらし、射撃の反動を上手く殺す香織の背を見ている。
 よくできた身体だ、と思う。ここまで成るのにどれくらいかかったのだろう。
 それからあとどれくらい彼は自身を保てるだろうかと計算する。身体よりも精神が先に崩れるだろう。そこから身体が駄目になるまでには意外と長い時間がかかる。
 香織の向こう側の地面で、三人の人間が殺虫剤をかけられた虫のようにもがいている。両脚を枷で拘束されているので逃げられない。
 米良は少し感傷的なことを考えてみる。
 香織の何がどうなってこんなことをしているのか米良は知らないが、本来なら香織の人生は欠けていない花火の下にあったかもしれない。
 米良はへらへらと笑った。
「上手だね。素晴らしい」
 香織の横を通り過ぎ、倒れている人間の一人の前にかがみこむ。被弾の衝撃で心臓や肺を傷つけない程度に胃を撃ち抜かれているので、死ぬまでには二十分ぐらいかかる。
「これからやることは、カラス避けに捕まえたカラスの首をはねて軒先に吊るしていくのと同じことだろ。でも、人にはカラスよりも想像力が少しあるから、痛めつけた死体を見せれば仲間の身に起きたことを追体験させることができる」
 米良は笑んでみせる。生臭い光景など心底どうでもいいようなふうに。
「そういう嫌がらせ得意だし、任せてよ」
 落ちている手を取る。指の末節骨が一番削ぎやすいうえに知覚が鋭敏だ。一つ果物を切り落とすみたいにナイフで削ぎ落とす。くぐもった叫び声を聞きながら香織を見ている。香織は怪訝そうな顔をしていた。
「べつに君が誰を何人どう殺そうがどうでもいい。俺は香織と一緒に歩きたいだけだよ」
「死にたいのか?」
「それもいいね」
 香織は米良を観察する。何もない白紙の男。
 戻ればいいのに、と香織はふと思う。
 何もないからやり直せる。


「今なら、あっちへ戻れる」
 香織は腕を上げて指し示す。その方向で花火が上がる。一瞬だけ二人の姿が強い光に照らされる。
 すぐに消えて、しんと静まる。
「香織は戻りたいと思う?」
 香織は首を振り、腕を下ろす。
「戻る場所はない」
「それじゃあ」
 俺も、と言って米良は肩をすくめた。
 花火が上がる。やはり欠けていた。
「でも、来年は見に行けたらいいよね」
「どうせ仕事だ。これから拷問したあと死体をばら撒く。早く手伝え」
「はいはい」




















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